2023年人権コラム「心、豊かに」

更新日:2024年03月14日

『人権コラム 心、豊かに』は、「広報ひた」1日号に掲載(毎月)しています。

考えよう、自分にできること【1月1日号掲載】

“一年の計は元旦にあり”
「物事は初めが大事で、しかもしっかりした計画のもとに着実に行うべき」とすることわざです。年の初めの過ごし方が、その一年を左右するという意味合いから、新しい年を迎える日に一年間の目標を立てる人も多くいるでしょう。その目標の一つに「人権意識を高める」ことを加えてみてはどうですか。
唐突にそんなことを言われても、どうすればいいのか分からないという人は、例えば、テーマを決めて、深堀りしてみてはどうでしょうか。もちろん、自分自身の興味や関心を優先し、テーマを決めることがベストですが、迷ったときは「女性の人権、子どもの人権、高齢者の人権、障害のある人の人権、部落差別問題」などの法務省が定めている「啓発活動強調事項(17項目)」を参考にすることをおすすめします。自分自身や周囲の人に関連する項目が見つかるかもしれません。
そして、選んだテーマをさらに深掘りするには、そのテーマにあった書籍を読んだり、インターネットで調べたりすることも手段の一つです。ただし、書籍によっては内容が難しく、理解しにくかったり、最新の情報ではなかったりする場合があります。インターネットは、手軽に最新の情報にアクセスできる反面、調べた情報の中に悪意や偏見が混ざったものが潜んでいる可能性があります。こういったリスクを避けたい人は、人権に関連する講演会や研修会に参加するという方法もあります。悩み苦しんだ経験を持つ当事者やその人たちに寄り添う支援者の「生の声」を聴くことが、理解を深めるきっかけになるはずです。近年は、会場まで行かなくてもオンラインで参加できるものも増えています。 
その他にも人権に対する理解を深める方法はたくさんあります。自分自身に合った方法を見つけて実行していけば、実りある一年になるのではないでしょうか。
 

本当の発展のために【2月1日号掲載】

世界中で蔓延している感染症や未だ明確な治療法のない病気に対する医療の問題、温暖化や海洋汚染等に係る環境問題への対応など、持続可能な開発に立ちはだかる問題を解決していくには、あらゆる才能を「総動員」することが必要です。
そして、この総動員には多くの女性を取り込むことが重要であり、多様性を発揮した研究は、才能あふれる研究者の数を増やし、新しい視点や創造力を生み出します。
この多様性を重視した国連は、2015年の総会で「科学における女性と女児の国際デー(2月11日)」を制定しました。これは、女性や女児が科学の分野に、完全かつ平等に参加できる機会の促進と活躍できる場を増やすことを目指し、「女性と女児が果たす重要な役割を認識し評価する」ことを目的としたものです。
しかし、日本では科学分野への女性の進出が、さほど進んでいないという現実があります。OECD(経済協力開発機構)は2021年の調査報告で、日本の状況を「高等教育新規入学者で工学、製造、建築を専攻する者のうち女性が占める割合は16%であり、OECD加盟国の中で最も低い」と示しています。
数年前には、ある大学の医学部を受験した「女性の合格者」の数を意図的に抑制するといった差別的な扱いも浮き彫りになりました。「女性は結婚や出産で職場を離れることがある。そうすると人手が足りなくなる」という意見(理由)を耳にしますが、これは労働環境の整備に係ることであり、女性に対する不当な扱いを正当化する理由にはなりません。
他国の政策や事例を参考とし、種々の問題を解決した先にあるのは、特定の分野の発展だけではありません。固定化した考えから脱却し、幅広い「人材=才能」が活躍できるようになれば、社会全体の発展が見えてくるはずです。

知っていますか?「インクルージョン」【3月1日号掲載】

人種・年齢・性別・能力・価値観など、様々な違いを持った人々が組織や社会において共存している状態を示し、多様性を意味する「ダイバーシティ」。国際的にも重要視されている概念であり、この言葉を耳にする機会が増えています。
そして、人権を尊重する観点からも重要なこのダイバーシティと合わせて覚えておきたいのが「インクルージョン」です。インクルージョンとは、包括的や受容性を意味し、どのような属性(個性)の人でも「参加し、機会を得られる」ことを示しています。
国際社会では、ダイバーシティで受け入れられた多様性を持つ人たちが、インクルージョンによってその個性をどのように生かすのか、又はその個性を生かすためにどのような体制や制度を導入するのか、ということが重要視されています。
例えば、障がいのある人を雇用しようとした場合、そのまま雇用するのではなく、その人の能力やスキルを生かすためにどのような配慮が必要で、どこまで対応できるのかといったことを検討したり、当事者とすり合わせたりすることがインクルージョンの考え方です。
このインクルージョンに沿った柔軟な対応が必要とされているのは、雇用の場だけではありません。性的マイノリティや外国の人たち、子育てや家族の介護をしている人など、周囲の人の理解や支援を得られず、困難を抱えている人が身を置く、学校や地域社会といったありとあらゆる場面が当てはまります。
ダイバーシティもインクルージョンもともに他者の特性を受け入れ、尊重することが根幹となっています。受け入れておしまいにするのではなく、そこから一歩進み、適切な配慮や支援が受けられるようになれば、全ての人が活躍できる本当の共生社会が実現できるのではないでしょうか。
 

まずはあなたの一歩から【4月1日号掲載】

4月25日は、「世界ペンギンの日」。毎年、この日の前後にアデリーペンギンがアメリカの南極基地に姿を現すことをお祝いしたことから、ペンギンの記念日となったそうです。
ペンギンは肺で呼吸をし、殻のある卵を産み、羽毛があるので鳥類に分類されますが、空を飛べません。翼は「フリッパー」と呼ばれるヒレのようになっていて、泳ぐときにのみ使われます。また、ペンギンの群れには、猿などに見られるようなボス、つまりリーダーは存在せず、「最初に動いた1羽に追従する」という習性があります。群れが危険に遭遇した場合、リーダーの指示ではなく最初の1羽が率先して動いて安全を確認。それを見たほかのペンギンたちがあとに続くことで、群れ全体はその危険を回避します。
そして、危険を顧みず、真っ先に動いた(餌を求めて海に飛び込む際に、最初に飛び込む行為も含みます)ペンギンは、「ファーストペンギン」と呼ばれます。ドラマなどでも取り上げられているため聞いたことがあるかもしれませんが、「リスクのある新分野に最初に挑戦する人」のことを指す言葉として多用されています。
人権を尊重する考え方を広めていく上でも、この「ファーストペンギン」は重要です。行動した方が良いのではないかと思っているのに「大きなお世話だと嫌がられるかも」、「誰も賛同してくれないかも」などと考えてしまい、行動に踏み込めないことがあります。そんな葛藤を乗り越え、「最初の1人」が行動することで、周囲に良い影響が広がっていくのではないでしょうか。
本物のファーストペンギンは、自ら進んで飛び込んでいるというより、群れの端にいる1羽が押し出されて飛び込むことが多いようですが、私たち人間は勇気を持って、自分にできる範囲の「最初の行動」に進み出せるはずです。

一番身近な“家族”の人権【5月1日号掲載】

晩婚化、出産年齢の高齢化、離婚率の上昇、グローバル化の影響ともいえる海外への移住などによって、家族の「形」は大きく変わってきました。この変化に伴って、家族に関する様々な人権問題も発生しています。配偶者に対するDV、高齢者や子供への虐待など、家庭内の暴力行為やハラスメントに加え、近年は「ヤングケアラー」に関する問題も取り上げられるようになっています。
ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、通常であれば大人が担うようなケアを責任ある立場となって担い、家事や世話、介護、感情面のサポートなどを行う「18歳未満の子供」のことです。その責任の重さと過剰な負担によって、学業や友人関係などへの影響が表面化され、見過ごすことができない現状が浮かび上がっています。
厚生労働省が令和3年度に実施した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」の小学生を対象にした調査で、「世話をしている家族がいる」と回答した人は、「健康状態がよくない(または)あまりよくない」、さらに「遅刻や早退をたまにする(または)よくする」といった回答の割合が、「世話をしている家族がいない人」と比べて2倍前後高くなっています。また、「授業中に寝てしまう」、「宿題ができていない」、「持ち物を忘れる」、「提出物が遅れる」など、学校生活における行動として「好ましくない状態」が、「世話をしていない人」の2倍ほど多くみられるといった結果も出ています。
「ヤングケアラー」が家事や介護を担った結果、引き起こされた行為は、咎められたり責められたりするものではありません。ただ、子供にとっての「日常」に陰りが見られるような現状は、変えていく必要があります。
家庭内で起きていることへの周囲の介入は、慎重な対応が求められますが、まずは小さな手助けなどの自分にできることから考えてみてはどうでしょうか。

「6秒」のコントロール【6月1日号掲載】

厚生労働省が実施した、令和2年の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内に職場でパワーハラスメント(パワハラ)を受けたことがあると回答した人は、31.4%となっています。また、大分労働局内に寄せられた労働相談も「いじめ・嫌がらせ」に関する案件が増加しています。
このような実態を受け、労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」の義務化が、令和4年4月1日から、中小企業にも適用されるようになりました。職場のパワハラは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であると同時に、職場環境を悪化させてしまうものです。これらの行為を放置することは、仕事に対する意欲や自信の喪失を引き起こすだけでなく、ときには心身の健康や命に影響を及ぼすこともあるため、的確に対応していくことが求められています。
現代社会では、多くの人が不安やストレスを抱え、「ついカッとなって大声を上げる」、「無神経、不愉快な言葉を投げ掛ける」など、日々の生活の中や職場で、ついイライラしてしまうことも多いようです。「こうあるべき」、「こうしてほしい」という理想と「そうじゃない」、「してくれない」という現実とのギャップが怒り(イライラ)を生む一つの理由になっているのかもしれません。
そこで、近年注目されているのが、「アンガーマネジメント」という心理トレーニングです。1970年代にアメリカで生まれたとされており、怒りの感情と上手に付き合い、相手の人権を尊重しつつ自分自身の人権を守るコミュニケーションスキルの一つです。
通常の場合、怒りのピークは6秒程度。この6秒の間に、「深呼吸をする」、「頭の中を真っ白にしてみる」など、上手くやり過ごすことで怒りの衝動を減らすことができるそうです。
人間の感情である「怒り」をなくすことはできませんが、上手にコントロールすることはできます。
周囲や自分を大切にする環境を作る上で、是非試してみてはいかがですか。

無くそう思い込み、守ろう個性 みんなでつくる、みんなの未来【7月1日号掲載】

自分自身の過去の経験や知識、人の属性などから、知らず知らずのうちに、ものごとを決めつけてしまう「アンコンシャスバイアス」は、自己防衛心が引き起こす悪意のない意識(言動)です。
自分に都合の良いようにものごとを判断してしまったり、自分の責任を回避したり、自分のことをよく見せたいといった意識(言動)は、日常のあらゆる場面で、"無意識の思い込み"、"無意識の偏見"となって表面化することがあります。
例えば(今では古い価値観と言われるようになりましたが)、「男性は仕事、女性は家事・育児・介護を担うべき」という決めつけ、「男なら弱音を吐くな」という性別だけを根拠にした押さえつけ、「女性にこの仕事は無理だろう」という蔑視的な考えなどが、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み・偏見)に当てはまります。
また、セクシュアル・マイノリティの人たちが差別的な言動を受ける問題、歴史的な過程の中で形づくられた身分的差別がいまだになくならず、結婚や就職などの場面で不利な扱いを受けてしまう部落差別問題などは、「人を属性に分けてしまう意識」が要因の一つとなっています。
このように、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み・偏見)は誰もが持っていて、十分な配慮や気配りを備えていても、自分の言動によって、相手を傷つけてしまうことがあります。そうならないためには、「アンコンシャスバイアスの存在に気づく」「何ごとも決めつけない、押し付けない」ことが大切です。
表題(今年度の男女共同参画週間のキャッチフレーズ)にあるように、"自分自身の心の奥にある思い込みに気づき、それを可能な限りなくしていくこと"は、多様性・個性を認め合い、誰もが自分らしく暮らせる、みんなの未来につながるはずです。

帰れない「故郷(ふるさと)」【8月1日号掲載】

精霊(しょうろう)トンボが舞いはじめ、日田ならではの郷土料理の下ごしらえに取り掛かる、お盆の時期。お盆も仕事に追われる人、お盆休みを利用して故郷に帰ってきた家族や友人などと穏やかで賑やかな時間を過ごす人。先祖の霊を家々に迎え祀るとされるお盆には、様々な過ごし方があるようです。
その一方で、「自分が故郷に帰ると家族に迷惑がかかる」という心配から、故郷に帰ることができない人がいます。現在では感染はおろか発病することもほとんどないとされる「ハンセン病」。この病気は、症状が進むと体の一部が変形してしまうことなどから、偏見や差別の対象にされることがありました。さらには、発生当時の誤った認識に基づき、国が患者を一般社会から隔離し、療養所に収容するなどの政策を強行したことで、偏見や差別はより一層助長されてしまいました。
その後、治療薬が登場し治療法も確立され、平成8年には約90年続いた隔離政策に終止符が打たれました。その2年後、療養所に入所する人たちは、隔離政策などを進めてきた国に対し責任を問う裁判を起こし、平成13年に「原告勝訴」の判決が出されています。
この判決を受け、ハンセン病患者とその家族は、長く苦しめられてきた差別の「誤り」の広がりを期待しましたが、偏見や差別は根強く残り、今でも多くの人が療養所で暮らしています。療養所には、家族への良くない影響を考慮し本名や戸籍を捨てた人もおり、故郷に帰れないばかりか、家族との再会さえ果たせないまま時だけが過ぎていく現実も見られます。
お隣の熊本県にある「国立療養所菊池恵(けい)楓(ふう)園(えん)(歴史資料館)」には、叶わなかった家族との生活、誤った認識による誹謗中傷の中で、明るい光を探し出そうとした人たちの努力とその記録が展示されています。家族や友人、そして故郷に思いを返すこの時期に、風化させてはいけないハンセン病について考えてみてはいかがでしょうか。

自分を見つめ直そう【9月1日号掲載】

「施せし情けは人の為ならず おのがこころの慰めと知れ 我れ人にかけし恵は忘れても ひとの恩をば長く忘るな」
これは、新渡戸稲造の著作『一日一言』の中に記された「恩を施しては忘れよ」の全文です。
文中にある"情けは人の為ならず"は、「情けは、その相手のためになるだけでなく、自分にも良い報いとなる」という意味合いを持つことわざとして広く使われており、"情け"を他人に対する思いやりや親切な言動と位置付けていると解釈できます。
思いやりや親切な言動は、「相手のことを思う」ことが大前提ですが、相手の受取り方次第では、いわゆる「お節介」と呼ばれる全く違う形になってしまいます。
相手が求めていない場合や押し付け的な言動が、お節介の特徴ですが、お節介を焼き続けると、人間関係にトラブルが生じてしまうことになります。
では、「適切な思いやり」とは、どんな状態を表すのでしょうか。一説によると、「自己完結している状態で、相手に必要以上に介入せず、相手を思い、心を配る状態」とされています。相手の心情を十分にくみ取った結果、「何もしない」という選択もあり得るものです。
冒頭の新渡戸稲造の文を現代文に書き直すと、「情けは人のためではなく自分自身のためにかけるものだ。だから自分が他人にした良いことは忘れてもいい。だけど、人から良くしてもらったことは絶対に忘れてはいけない」となります。
相手のことを心配し、寄り添う言動が「お節介」と言われることがあるかもしれません。「自分の情け」にこだわるのではなく、人から受けた「適切な思いやり」を教訓とし、自分自身の行動を見つめ直すことが、「真の情け」に出会う近道につながるのではないでしょうか。

いつか自分も通る道【10月1日号掲載】

高齢化は世界中で急速に進み、これまで高齢化が進行してきた先進地域はもとより、開発途上地域でも、今後同じように進展すると見込まれています。
日本の高齢化率は29%とモナコに次いで世界で2番目に高く、令和19年には、国民の3人に1人が65歳以上の高齢者になると推計されています。「高齢化=健康で長生きの証」と捉えれば、この流れは歓迎されるはずですが、歓迎とはほど遠い問題が広がり、支える側の意識が大きく問われています。
国連は、10月1日を「国際高齢者デー」と定め、高齢者の権利、高齢者差別や高齢者虐待の撤廃などに対する意識の高まりを求めています。政府広報が今年の5月に公表した調査の取りまとめによると、「悪徳商法、特殊詐欺の被害」、「劣悪な処遇や虐待」などが、「高齢者に関する人権問題」として広く認識されていることが判明しました。
悪徳商法等の被害は、テレビや自治体の広報による呼び掛け、更には被害の現場となり得る銀行のATMなどあらゆるところで、被害を防ぐ手段を講じていますが、大きな効果は表れていません。「高齢者なら簡単に騙せる」という、人権尊重のかけらもない意識によって、大切な財産を奪い取ってしまう卑劣な行為は、後を絶ちません。
また、高齢者に対する虐待(身体的、心理的、経済的、性的)は、家庭や介護施設などの「現場」で起こっており、深刻さを増しています。これらの背景には、家族の極度な疲弊、被害を受ける側が認知症などによって意思を示せない、などといった実情があり、虐待が表面化しにくいという特徴があります。
これまで長く社会を支えてきた高齢者に敬意を示し、その存在と人権を尊重する意識は、脈々と受け継いでいかなければならないものです。そして、その意識は「いつか自分も通る道」を通りやすくしてくれるはずです。

スポーツをすることは「人権のひとつ」【11月1日号掲載】

今年は例年になく、スポーツの世界的イベントが多く開催され、選手個々の熱気あふれる姿が感動と勇気を与えています。
そのスポーツイベントの代表格である「オリンピック」のオリンピック憲章にある「オリンピズムの根本原則」には、近代オリンピックの父と呼ばれるピエール・ド・クーベルタン男爵が提唱した「スポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でより良い世界の実現に貢献する」というオリンピックの精神が引き継がれています。
その上で、「すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、(中略)スポーツをする機会を与えられなければならない」、「このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、(中略)出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない」など、人権に係る項目がいくつか列挙されています。
そのような中、令和4年3月アイルランドの首都ダブリンで開かれた体操競技の表彰式で、とても悲しい出来事が起こり、その様子がSNSを中心に拡散され「人種差別だ」とする批判が相次ぎました。嬉しそうにメダルの授与を待つ子供たちに競技関係者が次々とメダルを掛けていきますが、なぜか黒人の少女だけその順番を飛ばされてしまいます。ほかの子にメダルが掛けられていく様子を困惑した表情で見つめる少女をフォローする人は誰もいません。
関係者は、過ちに気付き、後にメダルを授与したと語っていますが、少女とその家族に対する謝罪は、それから約1年半が過ぎた頃でした。
スポーツの舞台で、少女をはじめ多くの人が深い傷を負ってしまった出来事。少女の心の回復を祈り、オリンピズムの根本原則に沿った、スポーツ本来の輝きを期待せずにいられません。

情報という大波に「冷静な判断」を【12月1日号掲載】

「急激な進展」という表現が多用されるインタ-ネット。普及率(過去1年間にインターネットを1度でも利用したことがある人の率)は、この20年で急増しており(令和4年8月末時点が84.9%、平成12年当時は37.1%)、生活に必要なインフラ的なものとして、電気や水道と並び「無くてはならないもの」に位置付けされています。
この進展はさらに加速していくと見込まれており、常に膨大な情報が要不要を問わず飛び交う社会において、インターネットの影響を受けずに生活することは、ほぼ不可能な時代になりました。
情報は、「踊らされず」、「先入観や偏見を持たず」、「特定の考えに凝り固まらず」に対応すれば、"良い"効果をもたらすこともあります。例えば、サイトの閲覧や検索ボタンを押すなどの、日常の何気ない行為による「閲覧・検索の履歴」や、ネット上で買い物をする「購入の履歴」、さらには「いいね」の数などを分析することで、ユーザーの属性、志向、性格等が予測できるといった研究結果が報告されています。そして、これらの集められた個人データはAIなどによって分析され、政治、経済、社会の前進に大きく寄与しています。
その一方で、激変する情報環境は、人権(差別)の分野に"良くない"変化をもたらしています。差別意識と差別行為に対するハードルが低くなり、攻撃的・扇動的な差別表現(書き込み)が目立つなど、ネット上の差別事件は爆発的に増加しています。そして、このような書き込みも含め、日常的に受け取るネット情報には、その真偽が精査されておらず、フェイク(虚偽)とファクト(事実)の区別が極めて難しいものが多く存在します。
ネットに限らず、全ての情報を正しく活用し、社会の貴重な財産とするには、自分自身のバイアス(偏見)の再認識をはじめ、差別意識や偏見と密接に結び付くフェイク情報を見抜く力を養うことです。そのためには、情報や意見をできるだけ集めた比較を心掛けることと、「冷静な判断」を忘れないことが大切ではないでしょうか。

この記事に関するお問い合わせ先

日田市 市民環境部 人権・部落差別解消推進課 啓発推進係(人権啓発センター)
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電話番号:0973-22-8017(直通)
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