第1回「ひたReデザイン講座」レポート

更新日:2021年03月31日

第1回リデザイン講座

開催日:9月20日(水曜日)
【第1講座】
講師
レイデックス 明石卓巳氏
【第2講座】
講師
レイデックス 明石卓巳氏
CRA合同会社 岡崎正信氏
東北芸術工科大学 竹内昌義氏
文章:フリーライター 矢野由美
写真:日田市
【注意】今回の講座を、フリーライターにお願いして、レポートをして頂きました。

1、「問屋町再生」共感と信頼、責任で新しい価値を生み出す~

市民から見た日田市は「どんなところ」?

「市外からUターンで帰ってきて、日田が面白くないと感じている。もっと面白くしたい」
「ひとつの地域だけではなく、お互いの良いところを共有しあって地域デザインができれば、とても面白くなるのではないか」
これは、9月20日に行われた「ひたReデザインプログラム」民間向け講座に参加した方へインタビューでの声の一部。この“ご意見”を見たとき、「日田が面白くない?」と首を傾げてしまいました。
日田はとても美しい。歴史のあれこれが地層のようにあちこちに重なり合い、それを活かしたまちづくりも既に完了しているように感じ、その魅力に惹かれ引っ越してきた私にとって、まさか、のお話だったんです。
そういえば、知り合いのママさんは「子どもを遊びに連れて行くところがない、福岡や大分へ出なければ」とも言っていたことを思い出しました。(もう老人に近い)大人にすれば魅力的でも、子育て真っ最中、ないしは、日田市内で仕事をしながら生活をしている現役世代にとっては、自分たちが楽しめる場所に欠けている、ということなのかもしれない…。
今、このページを読んでおられるあなたは、今の日田をどう感じておられますか?

「欲しいまちは‟自分たちでつくる”」に納得

では、日田に住む人たちが楽しいと感じられるまちにするには、どうすればよいのか…。これについては、講師を務めた明石卓巳さんのお話にたくさんのヒントが込められていました。
明石さんは、岡山県のサッカーチーム「ファジアーノ岡山」の知名度を上げるプロジェクトに関わった方です。このときのお話で納得したのは、
 ・プロモーションとは、選ばれるための活動
 ・ブランディングとは、選ばれるための価値
この違いでした。日本中で行われているまちづくりは、もしかするとブランディングであって、プロモーションで共感を得るという大事なステップを飛ばしてしまっているのかもしれない、と身につまされました。

まちづくりと仕事探し・仕事づくりは、実は「ニアイコール」

明石さんは、プロモーションだけではなく“まちづくり界”でも良く知られている方です。手がけたエリアで仕事もどんどん作り出しています。
その中でも特に興味深いのは、岡山市北区問屋町で起こったこと。「2000年には41人だった町に2015年には1,329人が住まい、1,000人の雇用が生まれた」というのです。その仕組みは次の通りです。
 1.グランドデザインを描く(どんなまちにしたいか・まちづくりの基本)
 2.スモールエリアを設定(まちづくりのターゲットを選ぶ)
 3.キャラクターの発掘(面白そうな人・夢に向かって努力できる人を見つける)
 4.コンテンツの創造(そのまちならではの特徴を活かす)
 5.アンカーを打つ(目標や憧れの対象となるものを作る)
 6.仕組みの構築(協力者を募り、ビジネスとして成立させる)
問屋町でのまちづくりは、この6つのポイントを順に追い、ほぼ「民間主導」で行ったというのです。一時期は衰退の一方だった豆田町が今や観光の拠点になったのも、最初は民間主導だったため自由にできたと聞いたことがありますが、「ああ、これだったのか」と感じました。

問屋町で生まれた「初期のお店」こそ、アンカー

問屋町は、その名の通り問屋さんが軒を連ねる場所でした。岡山市の重要産業は繊維関係でしたが、産業が衰退すると同時に問屋町も空き家が目立つようになり、まちもどんどん荒れるようになっていったのだとか。
380メートル×380メートルの、決して広くはない土地に、今や約50ものオフィス・約60もの小売店があるのだそう。
荒れるようになったまちを打破するためには、最初に誰かがスタートを切らなければまちづくりの可能性に気づくことはありません。
そこで“アンカー”として繊維都市・岡山市ならではのアパレルブランドにある提案をします。そのアパレルブランドは、ブランディングに成功し、海外から逆輸入しなければ手に入らないほどの商品を生み出す力を持っていました。そのお店を問屋町の一角に設けることで、成功事例を生み出しました。
その後、輸入家具を取り扱う有名なインテリアショップの誘致にも成功します。これが、先でいうところの「アンカー」です。これを期に、「問屋町は面白そうだ、わざわざ出かけるに値する」、「起業しようと思っていたけれど問屋町もアリだな」、と人を呼び寄せられるようになったのです。

小さな仕事なら、個人でも起こせる

アンカーの発生でどんどん魅力的になっていく問屋町に、「お店を出したい」と願う人が現れ始めました。しかし、そこにはひとつのルールがありました。「いつでも誰でも立ち返れる共通の想い・それさえ守れば自由にできる」
自由とはいっても、ひとつのお店にいくつものコンテンツ(商品・サービス)を詰め込んだのでは、まち全体の活気にはつながりません。そのような状況を避けるため「ひとつのお店では、ひとつの商品(サービス)しか取り扱わない」ことを徹底したのだといいます。確かに、ひとつのお店である程度ニーズを満足させることができれば、「小さな百貨店」が出店したのと変わりません。まち全体のことを考えれば、専門店であることが望ましいと明石さんは判断していました。
たとえば、最近オープンしたお店は、ほんの10坪の店舗スペースにも関わらず、肉料理のみを出すのだそうです。「通りの奥にある小さいお店なら、女性も人目をはばからず“おひとりさま”で肉料理を楽しめるでしょう?」というコンセプトです。
また、別のお店はシュークリーム専門店。年中シュークリームを出すのですから、商品そのものも魅力的でなければなりませんし、イベントも必要です。クリスマス時期になると、一緒に過ごす恋人や家族のいない人向けに「シュークリーム食べ放題」イベントを開催したところ、応募が殺到、訪れた人同士が和気あいあいと盛り上がったのだそう。

小さな「企業」をどう実現する?不動産オーナーへのお願い

ここでとても大事なのは、「起業をするための一歩目、小さなスペースをどう確保するのか」です。実はこの点がとても大切なのですが、明石さんは“起業の芽”を持つ人のプランを事業計画に落とし込み、建物のオーナーに掛け合いました。
「空き家のままにしておくのがいいですか、それとも賃料は安いけれど若い人に貸してまちを人の集まる場所にするのがいいですか」という問いを持って…。
そうなんです。まちが活性化するかどうかは、土地や建物を持つオーナーも共に考えるべきことなのだそう。確かに不動産は高く貸したいのは人情というもの。しかしながら、それにこだわり続けていれば、ある程度の事業規模を持つ会社が入居するのをただ待っているしか方法はありません。
その間にも、まちは活気をなくし、これから日田を担っていく若手は「面白くない」「何も出来ない場所」と理解し、都会へと流出してそのままそこで仕事を見つけて家族をもうけることでしょう。
最初にご紹介したアンケートの声、まさしくそれが、今の日田の現状なのかもしれない、と思ったのです。
不動産オーナーの方、観光客だけでなく、市内に住む市民のために、是非とも一緒にまちづくりを考えてください。今の空室をどう使うべきか、“起業の若芽”と共に一緒に悩んであげてください。
もしも、入居者の中から「ヒット」が生まれたら、それがマグネットとなり、他にも入居を希望する人が出てくるかもしれません。そして、その周辺も活気付いて、「市民の楽しめる場」に変貌するかもしれないのです。

まちづくりの基本は「共感」たとえ手段は違っても

事業を共に作るとき、いわゆる正論の「A案」、もしも思惑外の事態に遭遇したときのための「B案」を立案するのが普通です。ですが、明石さんは「S案」も必要といいます。
「S案」とは、ちょっとしたおせっかいを含むさらに上を行くアイディアのこと。たとえば、不動産オーナーが「うちでは引き受けられないな」と思っても、知り合いのオーナーさんに一声かけてあげる、という方法もS案となりうるでしょう。
手段の変更が起きても、本気で起業を考えている人はそんなに簡単にはめげません。その人自身もS案を持っているかもしれません。大人が若者の声に耳を傾けてあげる雰囲気、つまり共感、それこそが「最大のS案」になりうるはずです。

日田へのUIターン者は、大きなポテンシャルを持っている

日田市で受けられる教育は高校まで。その後の教育を受けようとなると、福岡方面もしくは大阪や東京などの大きな都市に進学先を定める人もいるでしょう。
一旦は日田を離れた若者がUターンしてくる、これはとてつもなく大きな財産だと感じます。たとえば福岡は、今やインバウンド(外国人旅行客)で賑わい、日本でも有数の「面白い都市」とされていて、実際に国内からの移住者も増えているのです。
そのような都市で学んで就職したのであれば、どんな仕事を経験していようと、それぞれに洗練された技術やセンスを身につけているのではないでしょうか。そのポテンシャルをもって日田へ戻ってくる若者自身が、「自分たちが面白いと思えるまち」を作りたいと願っています。
都会からのIターン者であればなおさらです。日田というまちに惚れ込み、それまでの仕事を捨ててまで移住してきてくれた人たちなのです。彼らの持っているスキルを活かせる場所を作らない限り、日田は単に「環境がいい場所」で終わってしまうでしょう。

とはいえ、「貸すからには収入をイメージしたいよね」というオーナーの方へ

起業する人は少なからず「借り入れ」を起こすはずです。そのときはいわゆる「創業計画書」「事業計画書」を作成します。そのときに、起業を目指す人自身、「自分の考えている新しい仕事は、このように推移させたい(させなければならない)」数字で理解します。このとき、事業が軌道に乗るまで賃料が安ければ、それだけで計画はスムーズに進行するでしょう。
もしも空室にしておくくらいなら、「○万円×3年でいいよ」「軌道に乗ったら○万円にしてね」とディスカウントしてあげてはいかがでしょう。そうすると、起業したい人も助かるだけでなく、成功した暁には借りた方も「少しでもお返ししたい」と思うはずです。
そのうえ、ご自身のさじ加減ひとつで1年間の収益も明確になります。どうなるかわからない起業者に今までどおりの賃料で貸すのは怖くても、「まちづくりのお手伝い」として、お安めに期限を切って貸すのも一案ですよね。
もしかしたら、あなたの持っている物件が「目標・憧れ・誇り」の生まれる場所になったら…ちょっと鼻が高くなっちゃうかもしれません。

「おせっかい役」ができる人、募集しています!

どのエリアにも、顔の広い人がいます。そのような人もまた、自ら事業を興さなくともまちづくりに参加できます。
たとえば、空室・空き家探しをしている人を知っている、不動産オーナーを知っているのであれば、これからの日田のためにおせっかいを焼いてくださいませんか。よそから日田へ越してきた身としては、日田はいい意味で人のつながりが強いまちです。その良いところを活かして、若い起業の芽に手を差し伸べてくださいませんか。
もちろん、最初からうまく繋がることはないでしょう。しかしながら、おせっかいを焼いているうちに、どんどん情報が集まってくるはずです。そして、「頼られる存在」になれます。少しおまけしてくれるオーナーに「起業新人」をどんどん紹介してあげてください。このことは問屋町に活気をもたらした明石さんもこういっています。「先に人をつけてあげる。チャレンジしたい人を募って賃料の目安を出してあげる。そうすることで、話がまとまりやすくなる。」いくら小さなお店を出したいといっても、不動産屋さんが仲介してくれる物件はオーナーさんの“言い値”です。いくらネットで物件探しをしても、なかなか手の届くものには出会えません。
オーナーさんの“言い値”は、オーナーさんの意向次第で変更ができるもの。もしもオーナーさん自身、もしくは知り合いの方が起業の芽を発見したら、積極的に声をかけて欲しいのです。

「インスタ映え」「リノベーション」という言葉、ご存知ですか?

写真を中心とした投稿サイト(SNS)のひとつに「インスタグラム」というものがあり、写真で魅力を発信できる方法として若者の中で大流行しています。投稿した写真からその魅力を感じ取った人は、他のユーザーにも「これ、いいよね」とどんどん伝えていきます。魅力的な写真は「インスタ映え(ばえ)がする」といって若い世代にウケがよく、それをきっかけにお店に人が殺到するという現象さえ起きています。 
よくよく考えてみると、日田はあちらこちらに歴史を感じる建物があり、中にはそれらを活用したおしゃれなショップも少なくありません。土日の豆田町、観光客がスマートフォンやカメラでまちなみを撮影する姿はもはや日常。まさしくネットで発信しているアクティブなユーザーの心を捉えている証です。
もうひとつ、「リノベーション」という言葉はご存知でしょうか。建物の使い方を変え、上手に作りなおすことでお店や入居者に喜んでもらえる空間とする手段。都会のビルから、地方都市の古民家に至るまで、今あるものを活かしながら資産価値をあげる手法として定着し始めています。そこに、魅力的なお店が続々と誕生すれば、観光客のみならず市民をも楽しませるステキな場所になるでしょう。
先の問屋町では、
・窓の少ないビルの壁面にストリート系アーティストに絵を描いてもらい、SNSで拡散しやすくしようとしている。「平面美術館」として認知させたい。
という方法を用いているとのことです。

2、「共感と利」無くして、既成概念は破れない~

保守的なまちで、塩漬けの土地を「誰もが集える場所」に

第2部は、岡崎正信さんをコーディネーターとし、先の明石さん、建築家の竹内昌義さんのディスカッションでした。
岡崎さんは、岩手県紫波町で購入から10年間、いわゆる塩漬けとなっていた町所有の土地を「なんとかしてみろ」との町長の一声で、今や町民のみならず観光の拠点にまで“格上げ”したご本人。
そこは、「オガール紫波」として、公民連携のまちづくりの成功例としてよく取り上げられています。
この計画を立て始めたころ、岡崎さんは地元紙に「経済開発なんて民間には無理、まちづくりは行政の仕事では」と“袋叩き”に遭ったといいます。
市民性ならぬ町民性は
 ・保守的
 ・よそ者は「よそ者」
 ・ばか者は「ばか者」
という雰囲気なのだそう。大分県の県民性も同じようにいわれることを知っていましたので、なんだか胸の奥がチクリとしました。
岡崎さんが作ったのは
 ・オガールプラザ(後に町が一部を買い上げ町営図書館へ)
 ・オガールベース(バレーボール専門体育館+ホテル+コンビニなど複合施設)などです。
町の役場も隣接していますので、町民の皆さんもオガールを目指せば概ねの用事は済ませることが出来るのが特徴。この一角に病院や居酒屋も入れた、若者がチャレンジできる場を設けたのだそう。ご高齢の方でも「午前中の通院から夜まで楽しくしていられる」場所なのでは、と想像がつきます。
時には、建物と建物の間にある芝生の広場で、直売イベントをしたり、コンサートを開いたりと、スペースが活気付くような仕掛けも施します。

近所には家の連なる「オガールタウン」も

近隣には分譲住宅地「オガールタウン」が控えています。これに携わったのが建築家の竹内さん。建築に関心のある方ならご存じの「山形エコハウス」を手がけたその人です。
自然エネルギーと断熱性能を上手に用い、無駄なエネルギーを使わない家を設計、地元紫波町の工務店に仕事を出しました。歩いていける役場、歩いていける図書館、歩いていける病院、歩いていけるコンビニ…ご高齢の方のみならず、子育て中のママ・パパにもうれしいまちづくりです。

これは決して「ハコモノ」の話ではない!

ここまで読んでいただいた方の多くは、「いわゆるハコモノの話でしょ」という
感想をお持ちかもしれません。いいえ、それは完全な間違いです。というのも、オガール紫波は、そもそも土地を託され始まった公民連携の“事業”。
これまで人口も経済も右肩上がりの時代は、ハコモノがひとつの目玉となり、ときに人を惹きつけるものとなっていました。しかしながら今は逆。人口も経済も小さくなっていくなかで、まち全体、暮らしの「Reデザイン」(コンテンツ重視)が必要です。「税金払ってるんだから、まちづくりぐらいしてよ」―。本当にそうでしょうか。公的施設は行政にお任せせざるを得ないとしても、自分たちの暮らしやすいまち、住んでいて楽しいまちは、自分たちで考えてるべきものだろうと感じました。まちの主体は「わたしたち」なのです。民間の土地、公共の土地と線を引かず、共存して活かすことが必要のようです。

自信がなくてもやってみる・風当たりの強いところに出てみる

まちがまちであるためには、経済がそこで回る仕組みを作らなければなりません。日田の場合、観光客は多く訪れてくれますが、市民が楽しめるまち、市民で経済を回していけるまちでなければ“自立”できないのでは、と思えてきました。その点、いわゆる成功者である明石さんや岡崎さん、竹内さんはどう感じているのでしょう。
 ・自信やその根拠はないけれど、ひたすらやってきた(明石さん)
 ・風当たりの強いところに出ないと、物事の本質はわからない(竹内さん)
 ・たまたま実家が建設業をしていたが、自分自身がオガールからの報酬をもらえるようになったのはつい最近(岡崎さん)
まちづくりに“コミットする”には、それ相応の覚悟が必要ということのようです。

まちづくりは、市民の手で

公的施設をはじめとした公共事業が開始される前には、概ね「パブリックコメント」募集が行われます。市民からの意見を吸い上げ、すべての人にとっての100%ではないにしろよりよいものを作るためです。私自身、このようなことに関心を抱いていたか、と反省させられました。
一方、まちづくりは「起業を志す人」と「不動産オーナー」、法の問題に対応できる「行政マン」がいれば何とかなります。
今回の「ひたReデザインプログラム」では、民間向けコースのみならず、市職員向けのコースも開催されているそう。より身近に感じられる行政マンの出現にも期待しています。

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