第2回「ひたReデザイン講座」レポート

更新日:2021年03月31日

第2回リデザイン講座

開催日:11月21日(火曜日)
【第1講座】
講師
H.O.W代表 柿原優紀氏
北九州市職員 椿 辰一郎氏
【第2講座】
講師
H.O.W代表 柿原優紀氏
北九州市職員 椿 辰一郎氏
CRA合同会社 岡崎正信氏

文章:フリーライター 矢野由美
写真:日田市
【注意】今回の講座を、フリーライターにお願いして、レポートをして頂きました。

1、「地域の空間と資源を使ってハレの日をつくる」

「結婚式減少問題」に立ち向かったのは、元雑誌の編集者

近年、入籍するカップルの6割は結婚式をしない。この事実を知り、「まさか」と感じたのが正直なところです。確かに今時結婚する人たちは、経済が低迷している時期に出会い、それでも結婚しようと決意した訳です。お金のことにはシビアで「確かに結婚式にまで手は回らないだろうな」ということも一方で感じました。
しかしながら、結婚式は人生の「ハレの日」。派手でなくても新しい家族が誕生しました、これからよろしくお願いします、という結婚式はして欲しい…。お祝いしたい側もちょっと複雑な感情を抱いてしまいます。
この問題に、「まちの資源」を活かし立ち向かっているのが柿原優紀さん。大分県出身で、雑誌の編集に携わった後、フリーランスになった方です。

「まちの空間を使って、ハレの日を」

柿原さんご自身、東京の代々木公園が大好きすぎて「ここで結婚式をしたい!」と思ったそうです。結婚情報誌を購入してチェックしてみても、全てがパッケージ。自由度が低く思ったとおりにならない割に、平均額は330万円。確かにこれでは…結婚式を挙げる気にはなれないかもしれません。そのお金を結婚生活の足しにしたほうが、と考える方も少なくないはずです。
しかしながら、柿原さんは「まちの空間・まちの自慢の品で結婚式をし、まちのアピールにまで手を広げられるのではないか」と考えたそう。ウエディングとは、たくさんの人とお金が集まる場所。伝統を発信する場になるはずなのに、これはもったいないと気づいたのです。

柿原さんの講義風景1柿原さんの講義風景2

筆者もびっくり「すてきなウエディングベスト3」

結婚式を式場の庭で行うガーデンウエディングも今では一般的に知られるようにはなりました。それでも、それはやはり式場で行われるもの。食べ物もルールも式場の“お仕着せ”で心に残るものではありません。
今回のお話のなかで特に心に残った結婚式ベスト3はこれです!

1.引き出物は「マルシェ」でお渡し
淡路島で行われたDIYウエディングは、引き出物をチケットで渡しました。このチケットを手に、来場者はマルシェコーナーへ。事前に無農薬野菜や農産加工品を5,000円になるようランダムにセットにし、かごに盛り付け陳列することで、まちの特産品をアピールしました。
柿原さんいわく、「そこは関西人。損はしたくないので、ブースの人に品物の特徴を聞くのです。このセットが欲しいけど、あの商品も気になる。そういうニーズも想定して、別のブースで単品購入できるようにしておきました」。
もちろん結婚式自体も盛り上がりました。なにせ新郎新婦は鯛の塩釜焼きに“入刃”したのですから…。まさしく淡路島テイスト!

2.地域の力で「トラクター入場」、まさしく手作り結婚式
群馬県昭和村は、東京都の胃袋を満たす野菜王国。確かに「何もないところ」と認識されているかもしれません。しかし、そこには新郎新婦を祝う人が500人も集まりました。
地域のお母さん方(女性)は式場の飾り付けとお料理作りを、お父さん方(男性)は重機を使い赤城山をバックにしたステージ作りをしました。
会場のテーブルの上には菜の花が飾られ、椅子は収穫箱が使われたのだそう。もちろん白い布でハレの日を表現。その式場に、トラクターに乗った新郎新婦が“入場”。それに負けじと、地域の若い農家さんもトラクターでかけつけ、まるでトラクターの品評会のようになったとのこと。司会の方も、新郎新婦の紹介ではなく、トラクターの解説に走ってしまったといいます。
結婚式に招かれ東京からやってきた新婦のお友達は、結婚式につきもののハイヒールでおめかししていたにもかかわらず、「えー、ドイツ製のトラクター、すごい!」「なんかかっこいい!」と、服装に似つかわしくないテンションで大盛り上がり。農業が都会の人の中でランクを上げた瞬間だったのだろうと思います。

3.河川敷の夕暮れ時、地域の人たちとフォークダンス!
江戸川の河川敷に惹かれ、松戸市に引っ越してきたアニメーターさんご夫婦。特に夕暮れ時の風情が大好きで大好きで…しかしながら、地元の方にとってはただの河川敷・ただの土手です。
この河川敷は、ウォーキングや犬の散歩にも使われる公的な場所。ハレ(儀礼・祭)とケ(日常)を区切るため、白い布を使いやんわりとしたイメージの仕切りを作りました。
そばにあるかわいらしい橋をバージンロードに、どこにでもあるブタクサをミモザに見立て、「そこにあるもの」で美しく楽しげに演出。提供するお料理は、地元産の食材で、地元の料理に精通している人にアドバイスを受け作りました。
ハレとケの場の区切りは作ったとしても、その楽しげな雰囲気に引き寄せられる人のことも考慮し、同じ料理を1プレート500円で提供するための用意も忘れませんでした。
結婚式の儀式として行われる樽酒の鏡割り、結婚式場ではそのほとんどを捨てているのだそうですが、ここではプレート料理を購入した人にもふるまいとして提供しました。
結婚式が最大に盛り上がる頃、夕刻。集まってくれた地域の人たちとのフォークダンス大会が行われました。まさしく手と手を取り合い、新しい家族の誕生を祝う。きっと美しい光景だっただろうと思います。通行人でもいいから、その場にいたかった…と思います。

楽しみを生むために、公的空間を使ってもいいものなの?

柿原さんの手がけたアウトドアウエディングのステージになったのは、河川敷や公園など公的な場所も多くありました。「でも、それって問題はないの?」…そう考えてしまいますよね。もしもしてみたいことがあれば、その場所を管理しているところへ質問しに行けばよい、と柿原さんはいいます。
「その場所に文章化されたルールがあれば、それに抵触しないようにすればいいだけ。よく“前例がないので”と断られてきましたが、他の場での事例を紹介すると“それは流行っているの?”、“流行っているのならウチでもやってみたいよね”という流れで話が進むものです。まずは相談しにいくこと。そして、ルールがあるのであればそれを示してもらうこと。公園など役所の管理する場所は、禁止もしていないが積極的に許可できない、というだけなんです」。

「何もないから」…いえ、その土地ならではのものが“目玉”に!

「ここは何もないまちだから」…これは、筆者が生まれ育った別府でも市民が常々いっていたこと。今はその別府を離れ、日田にいる身としては、「NHKのブラタモリ2回分にもなる豊富なお湯と面白い歴史があったじゃない」と痛感させられています。
日田市民の方、今あなたが見ている日田市はどうですか。前回のレポート冒頭でも取り上げた参加者の意見のように「少し寂しい」と思ってはいらっしゃいませんか。これまでに取り上げた手作りウエディングの例のように、実は「何もない」なんていう場所は実は存在しないのではないだろうか…と思えてきませんか。私がブラタモリを見て膝を叩いたように…。
外部から見るまちと、実際に住んでいる人の目で見るそのまちとには、きっと大きな違いがあるのだろうと思います。外からまちを見るクセが身につけば、きっと、もっともっと住んでいる土地を好きになれるかもしれません。
日田には、はっきりとした四季、それから得られる美しい景色や農産物、恵みをもたらしてくれる山や川、長く受け継がれてきた伝統技術や歴史を背負ったまち並みがあります。それを見に来るためにわざわざ県外、ときには海外から人が訪れるほどの価値があります。
市民がもっと日田を楽しむ方法を、もっともっと考えていかなければ…。高校を卒業する17・18歳までに日田の楽しみ方を子どもたちに伝えておかなければ、大学進学や就職で市外・県外へ出たっきりになってしまい、どんどん高齢化率が上がって…と不安になるのは私だけでしょうか。

ある行政マンのお話

北九州市役所に勤める椿辰一郎さんは、子育て世代のよきパパです。
関門海峡の傍の緑地で、町内の子供さんたちと自転車の練習会を行ったところ、注意を受けた経験があるそうです。一般的に緑地や公園では、自転車などで遊ぶことはできません。
その話を自治会長さんと話したところ、自治会長さんは「そんなほほえましいに目くじらを立てんでも」と行政に伝えたそうで、その後は、注意は受けなくなりました。公共空間は皆のものですが、活動の質によっては禁止行為が許される。そのためには、自治会など地元の理解や協力が得られていることも大切なのです。公園や公共空間に、次世代を担う子どもがいない、子どもの声がしない…それは将来にわたり残っていかないまちになるのだろうと思いました。
北九州市八幡西区JR黒崎駅前の元複合商業施設「コムシティ」は、所謂、駅前再開発事業ですが、直ぐに破綻、長期にわたり閉鎖し、最後は市が買い取ることになりました。これについて椿さんは「方向性が違った。整備のやり方や中身について、市民も一緒に考えてほしかった。もっと声を大にして欲しかった。」と一市民としての感想をもらしました。
これら一市民の感覚をもっと研ぎ澄ますために、椿さんは面白い試みをします。所属する部を記載しない名刺を作ったのです。こうすることで、部や課にとらわれない相談事が持ち込まれるようになりました。
市の職員へ連絡が入るときは“苦情”であることが多いです。話もし、時には喧嘩もして、対応しているうち、市民の中にも知り合いが増え、中には、市の未来ために何かできないかと考えている人たちともめぐり合えたといいます。
組織の縦割りは、必要なことながら、どうしても知見を共有しにくいというデメリットもあります。これを払拭するため、先の「名刺作戦」が功を奏した、という訳です。

椿さんの講義風景1椿さんの講義風景2

行政も、「商売の感覚」を持ってよいのでは

椿さんは、ウィーンに行ったときの公園の写真を見せてくれました。公園中央の芝の養生期間のものです。日本で行われている公園の芝養生は、杭を打ち、縄を貼り、「立ち入り禁止」の看板を立てる…というのが一般的な方法のようですが、その公園は違いました。
円形の芝スペースを囲うように、ベンチが並べられています。物理的に人の通りを遮る工夫です。このベンチはまちの商業施設がCMのために置いてあるそうで、(重いですが、)移動しても良いし、買うこともできます。サンプル配布から商品が売れていくような感じですね。
また、公道は比較的自由に貸し出すのだそうです。道路には、小さい子どもが遊ぶ小さなメリーゴーランドを設置したりもできます。つまりは、車は通行止めになります。
これについて「なぜ道路の占拠ができるの?と問うと、“活動者はお金を払ってくれるから(裏返すと自動車交通はお金を払ってくれません)とさらっと言います。市民の公平のために、というような耳馴染みの良いような言葉ではなく、とてもあっさりと市の財政を潤すためと言います。日本の行政にはない感性です。日本でも、もっと商売っ気(稼ぐこと)を意識しても良いのではと思うようになりました」と椿さんはいいます。
椿さんは、今回の市民向け講座の翌日に行われた市職員向けの講座の講師でもあります。そこではどんなお話が飛び出たのか…興味シンシンです。

2、「公共空間をもっと使おう!」

トークセッション1トークセッション2

トークセッション

コーディネーターの岡崎正信さんを中心に、柿原さん、椿さんのトークが炸裂しました。
こんなお話、市役所の会議室で聞いちゃってもいいの、という一抹の不安を抱えながらも、興味深く耳を傾ける方々。建前やら、忖度やら、そんな日本人ならではの“しっとり感”はみじんも無く、カラリと気持ちの良いお話です。
岡崎さんは自身のパソコンを使い、「パリのカフェ」で検索した画像を見せてくれました。そのほとんどは道路の一部を使用している、まさしく映画で見るようなパリのカフェ。一方、「日田のカフェ」で検索した画像は、提供されている飲食物のものがほとんどでした。「空間を楽しむという感覚があるのか、ないのかの違いかも」とのことです。そして、パリの市の歳入のほとんどは、なんとカフェを設置するための公的不動産の占有料なのだとか。行政が商売してますね。
一方、岡崎さんが手がけたオガールプラザの公園は、使用に関する禁止事項はほとんどなく、火を使ってもいいのだそうで、ときには高校球児が何十人もバットの素振りをしたりもします。これだけ活気のある場所には、悪い人は近寄らないことも特徴のひとつ。そして夏に行われるオガール祭りでは1,700万円の売り上げがあり、その一部は市に入ります。岩手県内で唯一地価が値上がりしている、というのにもうなづけます。
同じく公共空間を使ったウエディングのサポートをしている柿原さんは、ときに結婚式の最中に近隣の方が呼んだお巡りさんに書類を書かされたことがあるそうです。しかしながら「お巡りさん、なぜダメなんですか?」と聞くと、「いえ、呼ばれたから来ただけです」とお決まりの手順である書類へのサインを求めるだけで、何かしらの処罰を受けたことはないといいます。
これに対し、市役所職員の椿さんも続けます。「規制緩和の関係は、行政的には、前例があるかないか、で判断するところはありますね。北九州の場合、他の自治体にやれることは北九州でもやれるし、特に福岡がやっていることには敏感ですね(笑)」。
公共空間の利用は、どうやら、禁止事項に抵触さえしなければ特に拒否されるものではなさそうです。押さえるべき点は「前例があるか・ないか」。
椿さんはさらに畳み掛けるように“残念事例”を持ち出してきました。「私が公園部局で働いていた頃、予算をとって、数億円かけて作った大きな都市公園があります。都市公園なので基本的には多くの禁止行為があります。オガールではOKな全力バットはもちろん禁止です。一方で、色んな市民活動ができるようコンセントを付けたりもしましたが、商業行為も簡単には許可されないので、あまり使われない。活動が無いから、雑草も生える。維持費は増える。」…なんとも残念。

行政も、市民と共によりよい「公共スペース」を作りたい

柿原さんは、ヒントをくれました。「条例などでも、完全な禁止事項に触れないことであれば、使用料を支払うことで公共スペースは使えるようになっています」。これが市と民間が手を携えつつ、賑わいと歳入を取り戻すきっかけとなってくれそうです。まさしく、“Win‐Winの関係”。
岡崎さんは、問いかけます。「日田の中心はどこですか? 駅前が新しくなるようですが、皆さんはどう使いますか?」。確かに! そうでした! 昨年、「JR日田駅前広場整備事業【基本計画の策定】」についてのお知らせを日田市のWEBサイトで見ていたのでした。
岡崎さんは続けました。「たとえ駅前広場が美しく生まれ変わっても、駅舎から出てきた人に訴えるものがなければ、来訪者は少し寂しい思いをするかも知れません。とはいえ、今の駅前の通りにポツリポツリとパリのカフェのようなものがあっても人は入りづらい。人間というのは、案外雑然とした場所というか、グレーゾーンのような場所を好むものです」。

若者が活き活きと楽しめる日田を作るために

前回のレポートを読んでくださった方ならお解かりかと思いますが、まちづくりとは、行政単体で行うものではなく、民間のみで行うものでもありません。市民が、市民のためになる“何か(コンテンツ)”を最適な場所に置いていくことで、賑わいは戻るという事例を学びました。
今回は、どちらかというと、公共空間を使うときの工夫、注意点などを教えていただきました。前回と今回とを通して受講することで、この講座の中でよく使われる「パブリックマインド」という言葉の意味がはっきりと理解できた感じです!
市民も、自分のためだけでなくみんなのための何かを生み、行政の力を借りながら大きくしていく。そのような人たちが何人も生まれたら、小さな子どもから10代の「日田っ子」も、わがまちを楽しいところと認識してくれるかも…。そう思うのです。たとえスターバックスやザラはなくとも。
そうそう、少し前に読んだある調査結果があります。20代のオフタイムの消費トレンドは、「モノよりコト、思い出に残る体験に積極的に消費したい(5割弱)」なのだそうです。買い物は福岡へ出ればいいし、必要に応じてネット通販だってあります。でも、体験はそこへ出向かなければ手に入りません。
住民も感じられるワクワクをさらに日田で広げるため、今後もこの講座は続きます。

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